当院では、入院患者の8割強が「統合失調症」圏の患者様です。そして、「患者様の社会復帰を目指し、急性期から回復期までの医療およびリハビリテーションを行う」ことが、当院の基本方針の一つとなっています。
「統合失調症のリハビリテーション」とはどのようなものでしょうか?
「リハビリテーション」と聞いて一般的に思い浮かべるのは、事故の後遺症や脳梗塞の後遺症などで運動障害や麻痺が残った時の「身体障害のリハビリテーショ ン」だと思われます。「統合失調症のリハビリテーション」と「身体障害のリハビリテーション」の経過を比較してみたのが(図1)です。
リハビリテーションの目的は、「障害」を抱えながらも、社会的機能(生活の質)を取り戻していくことにあります。「身体障害のリハビリテーション」では、 歩行障害のような「失った機能」を徐々に取り戻し、生活の質を上げていくことが目標となります。しかし、失われた機能が完全に回復するとは限りません。残 された「障害」については、適切な装具を用いて機能を補ったり、駅にエレベータを整備するといったような社会の援助が必要となります。「統合失調症のリハ ビリテーション」でも、同じように、リハビリテーションを通して、社会的機能を取り戻していくことが目標となります。また、「身体障害のリハビリテーショ ン」と同様に、退院した後にもさまざまな「社会的援助」「社会的資源の利用」が必要です。
では、「統合失調症」の「障害」とは何なのでしょうか?
統合失調症の特徴を模式的に示したのが(図2)です。
健康なこころでは、外からの刺激をある種のフィルターを通して受け入れていると考えられています。しかし、統合失調症では、そのフィルターの目が粗 くなっているために、不要な刺激までも受け入れてしまい、処理しきれなくなって頭の中が混乱してしまう(統合=まとまりが、失調=悪なってしまう)と考え られています。その結果として、統合失調症の様々な症状が出現しているのです。統合失調症のおクスリは、この粗いフィルターの目を適度に塞いでくれること で、急性期の症状をある程度コントロールしてくれます。しかし、「フィルターの目が粗い」という統合失調症の「障害」はまだ残っているので、おクスリを止 めてしまうと症状が再発してしまったり、社会の過度な刺激にさらされると具合が悪くなってしまったりするという困難(脆弱性)を抱えて生活していかなけれ ばなりません。 急性期の症状が回復した後も、院内でのリハビリテーションや退院後の社会的援助・社会資源の利用が必要な理由は、この「フィルターの目が粗い」という統合 失調症の「障害」にあると考えられています。
このように考えると、統合失調症の治療は、急性期の様々な症状の治療だけでは不十分であり、「身体障害のリハビリテーション」と同じように、 「急性期の治療→入院リハビリテーション→退院後のサポート体制」という流れが大切になります。当院では、このような統合失調症による「生活上の障害(社 会的ハンディキャップ)」を抱えながら社会復帰を目指している患者様のために、(図3)に示したように、「急性期の治療→入院リハビリテーション→退院後 のサポート体制」という流れを中心にして、さらに「家族への支援」、きめの細かい「ソーシャルワーク」を加えた診療体制を整え、急性期から回復期までの一 貫した医療およびリハビリテーションを提供しています。